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福岡家庭裁判所 昭和43年(少)1651号 決定 1968年6月28日

少年 K・Y(昭三〇・五・一四生)

主文

この事件を北九州市児童相談所長に送致する。

少年を昭和四三年六月二八日から向う一年間を限度として福岡学園内の行動の自由を制限する設備のある室に収容することを許可する。

理由

北九州市児童相談所長の送致理由の要旨は、少年はその犯した非行(触法行為)により、昭和四三年四月一〇日、福岡家庭裁判所小倉支部において、教護院送致の決定を受け、福岡学園に措置入園となつたが、早くも同月二三日には無断外出して別紙のとおりの触法行為を重ね、同年五月二九日、小倉警察署に保護され学園に帰園したが、このままでは再び学園を逃走する虞が大きく、かくては教護の目的を達し得ぬので本件強制措置申請に及んだ次第であるというのである。

そこで強制措置の必要性の要否につき判断する。少年の当審判廷における供述並びに送致書添付資料等を総合すれば、前記送致理由の要旨記載の事実を認めることができる。すなわち、少年は本年四月一〇日、前記福岡家裁小倉支部において、教護院送致の決定を受け、翌一一日、福岡学園に入園したが、早くも同月二三日に右学園を無断外出したまま汽車に無賃乗車して小倉に逃走し、以後駐車中の自動車の中や、小倉陸上競技場横の小屋に寝泊りして徒遊し或は年上不良者と交友し別紙記載の触法行為を重ね小倉警察署により保護されるまで一ヵ月以上もの間、父親の許に帰ることもなく、処々を放浪したものであるが、少年の福岡学園逃走は、専ら少年の過去の浮浪生活によつて身についた勝手気儘な生活態度から規律ある学園の生活になじめなかつたことに基因するものであり、非行の態様も観光地での車上盗を始め家屋侵入盗などで被害額も高額である。

ところで少年は生後間もない頃に実母と生別し、米軍相手の遊廓を経営し妾を蓄えた父親の許で基本的な躾教育もされないで成人したため、問題行為が極めて早期に発現し、前記の教護院送致決定を受けるまで、身柄付で、或は書面で、北九州市児童相談所に通告されること数度におよび、一時保護を受けたこともあつたが、その間にも無断外出して窃盗を犯すなど全く放縦であつたにもかかわらず、教護院に対する偏見をもつた固陋な父親の反対で、少年の教護院入院措置が遅れ、前記教護院送致の決定を受けるに至つたことが認められる。

以上のような少年の前記触法行為の態様、回数、並びに少年の生育歴、非行歴に、少年が基礎学習において極めて不充分なため精神の発達が未熟で、規範意識に乏しいことから罪障感がなく、欲求の赴くまま行動しがちであつて、自己抑制力に欠ける性格特性を併せ考えると、福岡学園における通常の教護では少年を教護院に送致した本来の目的を達し得られぬばかりか、少年の学園逃走と直結する触法行為を防止することも極めて困難であると認められる。

それ故、強制措置のとれる福岡学園で一定期間少年の行動の自由を制限し、本来の教護になじむまで、強制的な措置を講ずることは少年の福祉を全うするためにやむを得ないといわなければならないところ、調査官の調査報告、並び福岡学園教諭佐沢稔の当審判廷における供述により認められる福岡学園での強制措置の現状は、授業外の自習時、食事時および消燈後の睡眠時において、自由に出入の出来ない強制措置室における行動の自由の制限であるが、強制措置室も園児の情操に悪影響をおよぼさぬよう整備され、強制措置を受けた園児が福岡学園での授業や生活に適応するに従い強制措置室での拘束時間は漸次短縮されているものであつてみれば、前記の如き少年の浮浪癖と非行性に照らし、強制措置期間は本件強制措置申請どおり本決定の日から一年間とするのが相当と考えられる。

よつて少年法第一八条第二項により主文のとおり決定する。

(裁判官 松島茂敏)

別紙

少年は、

1 昭和四三年四月○○日午後三時三〇分頃、北九州市小倉区○町小倉城入口路上に駐車中のバス内より、辰○容○郎外一名所有の現金九万三、〇〇〇円、化粧品一式(時価五、〇〇〇円相当)を窃取し、

2 同年五月○○日午前一一時頃、同区○○町○丁目谷○勝方にガラスを割つて侵入し、同人所有の腕時計一個(時価八、〇〇〇円相当)シャツ三枚(時価一、〇〇〇円相当)カフスボタン一組、現金不詳を窃取し、

3 A外三名と共謀のうえ、同月△△日午前二時頃、同区△△町○丁目新○栄方前に駐車中の乗用車内より、金○フ○子所有の現金九万一、〇〇〇円、ハンドバック二個(時価七、〇〇〇円相当)スーツケース一個(時価二、〇〇〇円相当)を窃取し、

4 同月××日夕方頃、同区××町のアパートにおいて、○原○行所有の現金一万円および背広一着ほか七点(時価合計一万六、六〇〇円相当)を窃取し、

5 Aと共謀のうえ、同月□□日午後零時三〇分頃、同区○○○○丘国立○○病院独身寮に侵入し、宇○隆ほか二名の所有にかかる現金一、八〇三円及びカフスボタン等一七点時価二万二、九〇〇円相当を窃取し

たものである。 以上

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